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『悪女について』有吉佐和子(新潮社) 『悪女について』有吉佐和子(新潮社)

Life + BEIGE,
2017.05.18
『悪女について』有吉佐和子(新潮社)

富小路公子という女性が死んだ。自殺か他殺かわからない、謎の死だった。若い美人女性実業家としてテレビにも多数出演し、世間にも知られた人物。順風満帆に見えていた彼女は、死んだ途端、虚飾の女王としてスキャンダラスな人生を暴かれていく。

本書は、ある小説家が本を書くための取材として、公子に関わった27人の男女にインタビューをしていく27章の独白の物語。同じ簿記の夜学に通い、公子へ恋心を抱いていた男に始まり、同級生や元夫、雇い主などなど、メディアが騒ぐ醜聞通り、彼女に騙されたと誹謗する人がいる一方で、あの人ほど素晴らしい人はいないと賞賛の声も聞こえてくる。いったいどういうことなのか。

八百屋の娘として登場する公子(君子)は、いつも丁寧な言葉づかいで、気の利く、とても品の良い子。戦後解体された華族の生き残りのような雰囲気さえ感じさせ、実際に自分は八百屋の娘ではなく高い身分にあったのに、戦後貰われてきたと言うのだ。その後、公子は努力して身につけた簿記など会計の知識を駆使し、相手によって秘密や嘘を使い分け、巧妙な情報のやり取りで独自のポジションを気づいていく。

"人間も宝石も同じだと思うのよ。生命から輝くには、清く正しいことをしなきゃ"と言った公子は、ニセの宝石で金儲けをしていた。読者も公子の本音がどこにあるのか、それをつかむことが難しい。なぜならすべての公子像が誰かによる伝聞であるからだ。近年では『桐島、部活やめるってよ』が本人不在の物語を展開したが、本作でも中心となる公子のことばかりが語られながら、本人はいまどこにいて、どんな人生を送りたいと考え、あんな行動を取っていたのかの本意はわからないままなのだ。

中心が空白で自分がない存在と考えてしまうのは、違うのかもしれない。人は付き合う人の数だけ、その人の中の自分がいる。誰から話を聞いても絶対普遍の人間なんてきっといない。